桃色の憂鬱

文を書く練習

世界はそれを愛と呼ばない

 

 たとえ友達が日常の幸せを反芻するツイートをしていても、別の友達が彼氏と一年記念日にディズニーのホテルを予約してくれただの、有休を取って旅行に行くだの幸せど真ん中の位置情報が付いてる投稿をインスタでしていたとしても、俺は今日も俺がかつて付き合っていながらどうしようもないくらい傷つけた好きな人のことを書く。

 

 まぁ、別にそこに不満とか一切ないんだけど、なんだろ。税金安くなったりしない?ただでさえ所得税をバカみたいに毎月払ってるわけだしさ。ほら、あのちょっと前にエコカー減税とかあったじゃん。それもあっめ俺の友達がテスラを買ったんだっけ。なんかそれみたいな感じで、幸せな排出量が多い人達からそれなりの税金を取ってもいいんじゃないかな?みたいな気持ちは正直ちょっとある。

 

 だってさ、周りが排気ガスを撒き散らしながらダンプカーみたいなのを乗り回してる横で、俺はその排気ガスを吸い込んでゲホゲホ咳き込みながら自転車を漕いでるわけじゃん。風刺画かよ。それは「快適」っつー題が付けられた風刺画だよ。別に惚気るなとか不幸になれってわけじゃないんだけど、ただ、多めに税を払ってほしい。

 

 「その幸せを自ら放り投げたのは他でもないお前だろ」って?ごめん。今完全に俺自分のこと棚に上げた。それ言われたら何も言い返せねーよ。俺が、俺だけが超悪いし。そこはマジであれから一回もブレてないよ。反省も後悔も死ぬほどしてる。朝起きて一人だし、夜寝るときも一人みたいな生活の中で、日々当時を思い出しては、毎日「俺何してんだろ」って思うし、「俺が捨てたものこそが目にみえないほんとうにたいせつなものだったんだな」とか日々アホみたいに思い返してる。本当に泣きたいのは絶対に俺じゃなくて向こうだってことも分かった上で、でも俺もたまに泣きたくなる。泣かねーけど。俺にそんな資格ねーし。

 

 それはそうとして、こっからまたゴリゴリに棚に上げて話していくけど、あれだや。今月幸せだったから知らない間に幸せ排出量増えててやばい!笑 みたいなことを言ってる人を見ちゃったら、俺もう、悪魔の実を食べちゃうだろうな。ゾオン系の。クマクマの実(モデル羆)を食べて、第二の三毛別羆事件を起こすと思う。そうじゃなくても、こう、税務署の職員とかが家に来て俺のブログを読んでさ、おっ幸せ排出量がすごく少ないですねー、非課税内に収まってますよーみたいな、なんなら俺の申告してる量があまりにも少ないから、あのですねー、恋をされている方としては少し不自然な数値でして……つって幸せ脱税容疑で捕まったりしてさ。

 

 被告人!あなたは幸せ排出量を過小に申告しているのではありませんか? 異義あり! 全てありのまま申告しております! しかしですねぇ……この程度の幸せじゃ人を愛し続けるなんて出来ないでしょうよ……うちの三歳の息子ですらあなたより税金が高いんですよ(ここで傍聴席から失笑が漏れる)、静粛に静粛に! 判決を言い渡します。主文、被告人に死刑。最後に何か言いたいことは? おれは……おれは本物の怪物になりたい!!!つってね。そんでランブルボールを三つ食べる。って俺は一体何の話をしてるんだ。誰か早く折ってくれ、話の腰を。

 

 まあなんだ、こんな来る日も来る日も自分の行いを後悔して、そんな資格もねーのに好きでいたとしても、俺だって男の端くれ、女の子と遊びたくなる日もあるし、意味なくベタベタしたくなるときだってある。自分のことを好きだと言ってくれる人が現れたり、そうじゃなくても、それなりに密にコミュニケートしてる人と飲みに行って、いい感じの雰囲気にでもなったら、俺はこの後こいつと激しいキスをしてるんじゃないか?とか思わないわけでもない。もちろんそんなことはしないし、まあ、その、そもそも論の話、いい感じの雰囲気になんてならない、というか密にコミュニケートする人すらいないんだけど。ないけどあるみたいに書くのが文章の趣なんじゃねーの?知らねーけど。

 

 たしかに好きな人じゃない人と遊んで期待以上に面白かったり、好きだと言われて想像以上に嬉しくなったりすることはあるけど、魔法みたいに世界を一新する驚天動地の神通力なんかなくって、結局、ふだん生活している好きな人がいない世界の延長でしかないことに気付く。そうなると途端に何もかもが馬鹿らしくなって、ぷしゅーと興味がしぼんでいく。みんなの彼氏や彼女にだってあるでしょ?そういう力。そんなこんなで、俺の気持ちは一つの目的語でしか語れないし、それを表す言葉は一つしかない、形容する形容詞も、生かす動詞も一つずつだけなんだと、今のところ結論付けている。

 

 でもまあこんなこと言ってても、好きな人とは交わることのない今の世界線の遠い未来で新しい好きな人が俺にも出来るはずで。どれだけ偉大な魔法使いにも最期があって、そしてその意志を受け継いだ新しい者が立ち上がるってことを、俺はハリーポッターシリーズから学んだ。大切なことは全部ハリーポッターに書いてた。ほら、『ハリーポッターと賢者の石』のラストシーン、ヴォルデモートのことを「例のあの人」と呼び直そうとしたハリーに、

ハリー、ヴォルデモートと呼びなさい。ものには必ず適切な名前を使いなさい。名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなる。

と言えた唯一の存在である、あのダンブルドアでさえも殺されて。だけど、亡きダンブルドアの代わりに校長に就任したマクゴナガルが、

彼の名はヴォルデモートです。あなたもそうお呼びなさい。どう呼ぼうと、殺しに来るのですから。

っつーことを、シリーズ最終章の『ハリーポッターと死の秘宝』でフリットウィックに言うじゃないですか。マジで痺れた。あとさあとさ、その直後マクゴナガルが、ピエルトータム・ロコモーター!つって石像を動かすんだけど、その時の、この呪文一度使ってみたかったんですよ、っつーセリフのチャーミングさとのギャップ。たまんない。

 

 いや、そもそもこのフリットウィックがかなりすごくってさ、魔法界って結構純血思想が残ってて、マグルの血が流れてるだけで混血だの穢れた血だの言われるような世界観なのに、フリットウィックは一人だけゴブリンの血が流れてんの。あんまりだよ。こんなのもう足かせってレベルじゃないでしょ。黒人差別が全盛期の頃にチンパンジーとの混血児なんか居たら、それはもう人扱いなんて当然されねーじゃん。

 

 それなのに学生の頃は決闘チャンピオンで、ホグワーツの呪文学の教授になってレイブンクローの寮監まで任されてる。凄すぎない?レイブンクローつったら、ホグワーツでもどちらかと言えば頭脳派集団なわけじゃん。高校時代にボクシングのインターハイで優勝してるチンパンジーとの混血児が東大法学部の学部長してんだよ。マジじゃん。ハグリッドがあれだけ問題を起こして仕事を辞めさせられたりアズカバンに突っ込まれたりと魔法省から目の敵にされてたのに、フリットウィックはマクゴナガルと共にアンブリッジに反発して、試験中に花火に追いかけ回されてるアンブリッジを見ながらガッツポーズしてもお咎めなし。最後はあのルーピンを殺した死喰い人ドロホフと決闘し、完全勝利。俺、フリットウィックが一番好きだわ。ホント尊敬する。

 

 じゃねえ。

 フリットウィックじゃねえ。んなことはどうだっていいんだよ。フリットウィックのことは特に尊敬してねえよ。どうしていつもこう、俺の話ってのは横道に逸れちまうんだ。

 

何の話だっけ。いずれ好きな人ができるかもっつー話だ。でも今はそんなのもちょっと考えらんないな。自分が他の誰かに今まで片思いして、自分を反省して生活を改めたり、日々を精一杯生きたのはこの瞬間の為だったんだ、なーんて言ってるって考えたら最悪だって思うもん。今までの恋はこいつに出会うためにあったんだ、なんて都合の良いことを考えてたらほんとぶん殴ってやりたい。タイムマシン乗って殴りに行きたい。

 

 だけどもし。もしも、いつか、俺のことを大好きな誰かが、偶然だとしても目の前に現れたとして。その子とどんどん仲良くなっていって、ある時、俺に備わってる鋭い観察眼と綿密に計算された論理にとらわれない自由な発想で、どうやらこの子は抱けそうだぞ、となったとして。その子と飲んでるうちに終電がなくなって、そのままなし崩し的にホテルに入ることになって。だけど俺にはまだ好きな人がいて、その子もそのことを知っているから精一杯自分の気持ちを押し殺した作り笑いで、エッチしても友達でいようね、なんて気を遣われたりして。その時、急にこんな自分が恥ずかしくなって、同時にその子に随分前から惹かれてたことを思い出したような錯覚に陥って、誤魔化すように頬にキスしたりしてさ。続きはちゃんとけじめをつけてからにする、なんて格好つけて、そんな俺の格好つけも全部相手にはバレてるんだろうけど、でもそれには相手は何も触れず、ありがと、とだけ言って、それから随分と俺は悩むわけ。

 

 やっぱり好きな人のことが好きなのは変わらない。だけどその子に惹かれてってる自分も確かにいる。悩んで悩んでってしてる時、あんたとホテル行った後、あの子ほんとは怖くて辛くてずっと一人で泣いてたんだよっつーことを共通の友達から聞かされて、すっげー怒られて。それを聞いた時に、やっと、俺は好きな人のことはもう忘れようって、心から決意できるわけ。

 

 なんだろうな。正直なところ、俺が好きな人にかけられた(いや、俺が自分自身にかけたの方が正しいのかもね。)魔法はたしかに強大だけど、俺は幸運にも尊敬する呪文学の教授を知っている。俺のお願いに対して、その人はただ何も訊かずに頷いて、フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)と言った。

 

やっぱりこれ、フリットウィック先生って凄くないですか?