桃色の憂鬱

文を書く練習

エンドロール

 ここ二週間くらいブログ書いてないしそろそろ更新するかーつって自分のブログを開いてみると、最終更新日が三十二日前って表示されててそのままブログを閉じた。それから二、三日後かな、ひょっとすると四日くらいは経ってたかもしんないけど、ま、それくらいのタイミングでおそるおそるブログを開いてみると、今度は五十日前って表示されて、思わず、ダウト、つった。

 無理があり過ぎ。さすがに俺でも計算が合わないことくらいわかる。いや、だって、ふざけてんじゃん、五十日間もあれば人って二十記事くらいは書いてるっしょ普通、それともあれか、知らねーうちに五十日の定義が変わったのか?あん?つって、爆笑しながらGoogleで「五十日間」って調べたら杉原千畝を紹介してる「命のビザ−運命の50日間」っつーサイトが出てきて、そこに「杉原が50日間で助けたユダヤ人は6000人とも8000人とも言われている。」みたいなこと書いてて途端にしゅんとした。

 いや、俺は別に外交官じゃないし数千人の難民を救えてなくても別に良いし、それが当たり前なんだけどさ、それでもなんつーかさすがに密度が違い過ぎるっていうか、ほら、たとえば杉原千畝がブログをやってたとしてさ、五十日間くらい更新が止まって、元気してんのかなー千畝っちのやつ、とか思ってた矢先に、やっと「千畝のリトアニアDays」が更新されて、そこで「皆さんお久し振りです。杉原千畝です。まずは五十日間もブログを更新できなかったこと、お許しください。ユダヤ人を6000人から8000人くらい救っていてブログ書く時間がありませんでした」とか書いてたらさ、いやそりゃそうだよ、みたいな。なんか偉大さの規模感が正確に捉えられないからあれだけど、たぶんブログとか書く時間は普通になかっただろうな、みたいな感じになるじゃん。気軽に「お疲れ様でした」とかコメントできないし。

 なんかそんなの読んでたら五十日間ブログを更新しなかったあとの記事って、ひょっとしてそれくらいの規模の出来事が求められるんじゃねのーかって気持ちになってきて、それからどうしよどうしよって思ってたら今日でちょうど二ヶ月経っちゃった。なにこれ? もしもーしタイムパトロールさーん? えっと、もう、この二ヶ月間をありのまま書いていい?

 んと、俺、前回の記事でたしか入院してるばあちゃんの見舞いに行きましたっつー話を書いたと思うんだけど、あれから二ヶ月間の進捗だよね。えっと、ばあちゃんの話に限って言えば、無事退院してまあステージ4なのは変わらないんだけど、一応元気に生きてます。来月どっかで休み取って顔出しに行こうかなーって感じ。

 それ以外はなんだろうって、まあ結構色々あって、転職して社会人を再開したり、スマホを替えたり、友達が入院したり、彼女ができたり、好きだった人が結婚したり、こうやって列記してみると時日に見合っただけの出来事はちゃんとあって、人は変わらずにはいられないんだ、な、みたいな、俺らって変わりたくないとどれだけ願っても変わらずにはえ、なに?うん。あー。オーケーオーケー。彼女ね。彼女ができた話ね。わかってるわかってる。無理だとは思った。あがき、みたいな。こんな感じでさらっと流してみたらひょっとすると、みたいな、いやー、なんつーか、彼女ができたくだりに関してはめちゃくちゃ突っ込まれそうだから、さらっと良い風の話の中でまとめあげて終わらせたかったんだけど、えーっと、さすがに無理?

 まあなんだろ。そういうことです。彼女つっても、女性の三人称ではなくって、恋人な方がちゃんとできました。わかります? 恋人の意味。相手はこのブログにも何度か出てきてた人で、ほら、舌の根も乾かぬうちに、みたいな感じでお叱りを受けそうなんだけど、まあブログに関してはさ、どれだけ応援してくれていた人たちに怒られても、こう、ね、沈黙は金って感じで、いわゆる黙殺、もとよりこういうブログだったんスけど、っつー感じの佇まいでブログを更新し続けるから何も問題はないんだけど、ほら、やっぱさ、友達に報告するのが。すげーなんつーか、憂鬱じゃないけど、気まずいというか、ね、わかんじゃん。俺ってあんま自分の話を本音でしないからさ、今まで元カノのこと好き好き言ってたくせに、みたいな、じゃん。そんで元カノ結婚してんじゃん。なんか空気で感じるわけ。お前のこと慰めてやろうみたいなさ。そんな矢先、じゃん。だからまあドキドキしながら、俺、彼女できたわ、つって、それからトーク画面を開いたり閉じたりそわそわしながら待ってたらすぐ返事が返ってきて、いつか言うと思った、って言われて。さすがに笑った。

 えー、まじかー、いつか言うと思ってたのかよー。だってなんかお前最近ずっと楽しそうだったじゃんって。へえ俺ってそんな感じだったんだ、まあ結果的に正しいのはそっちだったわけだし、そんなもんかー、とも思い直して、だとしたら俺自身もこんな展開は予想してなかったんだけど。

 でもね、本当に俺がまた誰かと付き合うなんて一切想像できなかった。実際さ、「あの人の残像と過ごす若くして始まる老後」とか意味分からんポエミーなこと言ったりしてたし、「あいつは家族みたいなものだったから、それが欠けた喪失感は埋められない」だの、「恋人が最終的に行き着く先がそこだとしたら、もう二度とあんな喪失感は味わいたくないから、彼女なんかいらねぇ」だのずっと息巻いてたわけで。

 だからなんか今すごく変な感じがする。正直なところ、何か劇的に変わったことがあるわけじゃないからあんまり実感がなくて、でもその「歯ブラシ立ておそろいの買ったー!」って連絡が来たりとか、ちょっと電話したら元気づけられたりとか、なんか自然と家に遊びに行けたりとか、違和感なく同じベッドで横になったりとか。そういうひとつひとつにふと、めちゃくちゃ嬉しくなったりして、あぁ俺今好きな人と付き合ってるんだって感じる。それこそ彼女がいないまま元カノの結婚なんか知った暁には俺って本当想像するのも怖いくらい落ち込んでたと思うから、そういう意味でももう一度ちゃんと人のことを好きになれて本当に良かった。

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 ちょっとだいぶキモくなってきたからこの話はこの辺にしといて、ここからが当ブログとしての問題なんだけど、先ほども言った通り、俺ってずっともう元カノの残像を抱きしめて朽ち果てると思ってたからさ、全く先のことなんか考えてなくて、そのせいで生じた根本的な欠陥に向き合うしかなくなったわけ。

 何かって言うとさ、その、記事のカテゴリ分けってあるじゃん。みんなはあんまそんな気にしてないと思うんだけど、これって俺にとってかなり大きな問題で、今までは「好きな人について」「好きな人じゃないことについて」「創作」って分類してたんだけど、これがすげービミョーなことになってきてる。当然元カノに関しての記事はこれまで「好きな人について」なんだけど、この分類法だと彼女に関しての記事は「好きな人じゃないことについて」になってくるんだよね。

 これさ、さすがに意味不明じゃない?でもなんか今までのカテゴリの名前を変更して、たとえば「元好きな人について」「彼女について」みたいなのは本当に最悪じゃん。特にその変更について何も触れずに変えたことがみんなに露見すると、それはもう、もちろん黙殺するんだけど、終(つい)ってことになる。だからって「好きな人について」で今後彼女の話を書いて、元カノのことを「好きな人じゃないことについて」とかにするとわけわかんなくなるし、何より途中からこのブログを読み始めた人から、ここの管理人マジの馬鹿じゃん、と思われかねない。以前あれだけ悩んで、神の一手と思って打った一手がまさかのトン死。あの分岐からはどうやら死筋しかなかった。

 もうこれは戦後の歴史に倣って墨塗りにするしかないのかもしれない。「好きな人」という文字列を検閲で全て■■■■と表記し直して、カテゴリも「■■■■について」「■■■■じゃないことについて」に変えて、たとえば過去の記事の内容も「■■■■ってほんとにすごくって。世界が見違えるようになるし、■■■■のためなら俺なんだってできちゃうよ」みたいな感じで。ディストピアの完成である。

 ただこれは諸刃の剣。全ての問題が解決されるかわりに、公権力から目をつけられる。だって完全に違法なクスリをやってる人の感想ブログだし。「今日は知り合いのイラン人から■■■■の話を聞いてすっげーテンションあがった!」みたいなブログを何気なく書いたら最後、「落としのプロ」「拷問龍バイオレンスドラゴン」と署内から恐れられる暴田(ぼうだ)脅太郎(きょうたろう)っつー刑事からめちゃくちゃ違法な取り調べをされて、■■■■は好きな人って意味なんです〜! といくら言っても、あン?好きな人?ナマ言っちゃあかんわ君。隠語やろ。”好きな人”の頭文字はS。エス覚せい剤のことや。つって。

 調書にも「■■■■は覚せい剤って意味なんです〜!」とか書かれて、それを見た俺は慌てて、俺は覚せい剤なんて言ってない〜! って否定するんだけど、ニュースでは俺の発言を都合のいいように前後を切り取られて「発表によりますと容疑者の男は、取り調べに対して”覚せい剤は好きな人。俺は覚せい剤。”などと意味不明な言動を繰り返しており、警察では覚せい剤の使用を含めて厳しく余罪を追及する方針です」みたいに捏造されて報じられる。

 そのVTRをスタジオで見ていた宮根誠司が、いやあもう最近の若者ってほんまみんなこんなんやね、あほちゃうか、みたいなことを言って、ま、これは良いわ。宮根誠司はいい。まだまだ書かなきゃいけないことがあるし、ミヤネ屋の話をするほどこちとら暇じゃない。

 プランBはさっきのと少し被る部分もあんだけど、より具体的に好きな人をなんか、たとえばオコジョとかマンチカンみたいなかわいい生き物に置き換えて、当たり前みたいな顔でオコジョ大好きブログを更新し続けていくってやつ。これはかなり現実的。

 そりゃ過去の記事で筆が滑って好きな人への思いを熱く書いてたりしてるだろうし、ほらたとえばそれが、オコジョと遊びに行ってそれがほんと楽しくて、俺、告白しちゃった、みたいな文章になっちゃったりしたら、整合性を保つために、「自分、小動物に恋愛感情あるし告白もした異常者ッス」みたいな感じで今後は押し通さなきゃならなくなるだろうけど、それくらいは背負うつもりだよ。これが責任ってやつだろーから、さ。小僧にはまだまだわかんねーかもしんねーけど、責任っつーのは、立場上当然負わなければならない任務や義務のことだ。大辞泉に全部書いてる。

 でもそれよりなにより、このプランBは完全に嘘を吐くことになるから、それってつまり俺が今まで書いてきたものをすべて否定することになるっつーのがなんとなくさみしい。飽きてりゃ別にブログを消して終わり終わりつっても良いんだけど、ブログを書くこと自体は今でも楽しいし、いっそ別のブログでも始めよーかなとかとか、そんな感じで今色々考えてて、でも元カノのことを書くことはないんだろうし、もうなんとも思ってないんだし、みたいな。

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 「ちょっと待って、でもそれって君がほんまに思ってることではないんちゃうの?」

 耳障りな関西弁が耳に飛び込んでくる。僕は、ほっ、と、い、て、く、だ、さ、い、とその声の主に向かって口の動きだけで言い返した。

 いつもこうだ。僕に何かがあるといつも誰よりもそれに早く気付いて、余計なお節介を焼いてくる。今日も仕事終わりにとつぜん彼に連れていかれたと思ったら、誘導尋問みたいにことの顛末をすべて話させられた。

 「だって君がそんな顔してるときっていっつもそうやんか」と彼は言うと、勝手に烏龍茶を二つ大声で追加し、おもむろに僕の頭をがしがしと撫でてくる。だってそんなこと言ったってどうもこうもできないじゃないですかー、と僕はその手を振りほどきながらも、どんどんと本心を吐露してしまう。

 じゃあどうしたらいいんですか、こんなの。

 「思うままにしたらいいやん。良いも悪いもないわ」

 ほんと勝手な人ですよね。

 「難しく考えなや。君がひとりで始めたことやん。それやったら君ひとりで終わらせるしかないねんて」

 ひとりで始めたことは、ひとりで終わらせるしかない、ですか。

 「そうや。僕ら周りにできるのはその過程で君を手伝ったり、君がちゃんとひとりで決めて終わらせなあかんってことを伝えるくらいやからな。おっ、きたきた。ありがとさん。烏龍茶飲み飲み」

 元カノのこと、なんとも思ってない、ってことは、ないです。本当は心の底から憎いです。自分も幸せだから全然いいはずなのに、相手が幸せそうなことになぜかモヤモヤするんです。そういう負の感情すら抱かないまっさらな他人になりたいのに、なかなかなれない自分に罪悪感を感じるんです。

 「そんなこととっくに知ってるわ。僕のやってる仕事わかってるやろ。情報が命やねんで」

 気が付くと僕は大粒の涙を流していた。彼の言葉はぶっきらぼうで、気休めの優しさもなくて、僕の言って欲しいことなんて何一つかけてくれない。なのに、それなのに、自分ですら気が付かないような方法とやり方でいつのまにか彼はそこへたどり着いて、あたたかく僕を包んでくれている。

 どうしていつもそうやって僕のことはなんでもわかるんですか。

 僕の言葉に彼は、さっきも言ったやん、と破顔する。

 「だって君がそんな顔してるときっていっつもそうやんか」

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 「おっお疲れさん。ホシはゲロったで。あいつまだ元カノのこと全然忘れてないわ。起訴の用意すすめてくれ」男は扉の外にいた部下に対してそう言うと、部下たちから賞賛の声があがった。

 「さ、さすが落としのプロ! お疲れ様でした! よくあのホシに自白させましたね。一体どうされたんですか?」一人の部下が男に尋ねると、暴田脅太郎はニヤッと笑いながら「僕の仕事は刑事や」と言った。 これなに?

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 まあ正直、元カノのことをなんとも思ってない、なんてことはない。この期に及んで「好き」ってことは絶対にないけど、まだ「嫌い」とか「見返してやりたい」って思うくらいには、気にしていることは認めよう。

 でも、それと同時に自分の人生の主役は自分だから、ある種その一部を元カノに委ねている現状は健全じゃないと思う。し、何より当時の自分と今の自分とを比べたら今の自分の方が全然好きだし、あのまま付き合い続けてたら今の自分は絶対にいないから、そう考えたら結果的に良かったとも本気で思ってる。

 もう返せないところに置いてきてしまった借りは、今の自分が返せる場所で、返せる人達に返していくしかない。その意味で、こんなに欠点の多い俺を大切にしてくれる彼女とか友達とか家族とかを大切にしていきたい。本当に月並みの言葉だけど、俺が周りの人達みんなを幸せにして、俺もそれを通じて幸せになっていきたい。そんな決意表明に万感を込めるよ。

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 っつーことで皆さんお久し振りです。稚拙です。まずは二ヶ月間もブログを更新できなかったこと、お許しください。起訴されていたのでブログを書く時間がありませんでした。そしてこのブログを更新することはもうないと思います。今までご愛読いただきありがとうございました。またなんか書きたくなったらテキトーにブログを開設すると思うんで、そのときはまたよろしくお願い致します。