桃色の憂鬱

文を書く練習

二度と戻らぬ日々の回顧を君に捧ぐ

2021年11月21日 午後8時45分。

天気は大雨、冬の訪れの感じる肌寒い秋の夜

2年付き合っていた彼女に別れを切り出された。

2019年の11月4日にお付き合いを始めて、2年と2週間ほど後の出来事で、一緒に暮らし始めて1年とちょうど3週間が経った日のことだ。

 

「あなたと一緒にいても幸せにならないと思う」

大きくて綺麗な瞳を少し潤ませながら、真っ直ぐにぼくをみて君はそう言った。

 

続けて「新しい物件ももう決めたの」と告げた君の表情や仕草、眼差しからその決意の固さと覚悟の大きさを面と向かって感じさせられ、鈍感なぼくもさすがにたじろいだ。

 

正直なところまだ実感は全然ない。

ダブルベッドで電子タバコを吸いながら他愛もない話をして、ぴったりとくっついて寝ている。いつも通りの布団の感触、君の息遣い、肌の温もり、見慣れた寝顔。一緒に住み始めてから享受していた日常は相変わらず日常のままで、明日のぼくたちだけが何処かに行ってしまった。

 

君との関係性を変えてしまったことや、もう取り戻せないこと、取り返しのつかない決断をさせてしまった後悔は全部頭の中にあって、それでもこれから君を失うことに対する実感が湧かない。喪失感だけがぼくの中にない。

 

本当に笑っちゃうくらい変わらない生活と、取り返しがつかないほど変わってしまった君との関係性の狭間で、ぼくの心は激しく取り乱された。今まで知らなかった感情。悲しいとか辛いとか寂しいとか悔しいとかそういう型にはまった感情によるものではなく、まるで小さい子供が困惑したときに流す、そういう類の涙が溢れてきた。

 

ぼくの体の内側からあらゆる臓物をえぐり取られて表皮だけで生きているような、無機質の心臓が無色透明の血液を全身に循環させているような、そんな感覚だけが今のぼくを支配している。

 

思い返してみると、ぼくは本当に全くもっていい男じゃなかった。たぶん10人いたら10人全員がぼくとは別れた方がいいって言うような彼氏だと思う。

 

浮気をして君を裏切って、家事も碌にせず、決めた約束も長続きしない。本当に書いてて情けなくなるけど、君をたくさん傷つけて、多くの精神的な負担を与えてきた。

 

君からもらった優しさや温もり、大好きの数々を何一つ返すこともせず、感謝して大切にすることすらできなかった。

 

本当に君からは多くのことを学ばせてもらったし、それ以上に多くの幸せをもらっていたと思う。今更もう遅いけれど、感謝しているし、そのどれもがぼくの中で本当にかけがえのないものになっている。

 

本当に君は色々な思い出をぼくにくれた。

 

君との思い出を数えるのには無理がある。数百か、数千か、本当は勿論数え切れるんだろうけど、それまでにぼくは苦しくなってしまうと思う。君の方が苦しいだろうから本当はこんなこと言っちゃいけないんだろうけど。

 

あまりに楽しい日々だったから。

 

 

***

 

2019年9月23日。

就職活動が終わって少しした頃、

ぼくは初めて君と出会った。

初めて会った日のことは今でも鮮明に覚えている。

 

華奢な体に黒いレースのトップスとピンクのミニスカートを纏った、目が大きくて笑顔の素敵な女の子。ラーメン屋さんに行って、見かけによらずたくさん食べる君を本当に愛らしく思った。

 

その日、君はずっと笑っていた。シーシャ屋さんで、君はぼくに色々なことを教えてくれた。君の好きなこと、好きな食べ物、旅行で行った楽しかった場所のこと。君はお話が大好きなくせしてシャイで人見知りで、よく声が小さくなった。そして、恥ずかしさを隠すようにニコニコしながら話を聞いてくれている君を見て、ぼくはより一層愛らしく思った。

 

シーシャ屋さんは煙くてずっと居ると頭が痛くなるからあんまり好きじゃなかったけど、君と行くと色んな話が聞けたし、何より綺麗な顔を直視して照れずに済むから、君のおかげでちょっとだけ好きになった。

 

 

***

 

2019年10月中頃。

君は友達と韓国に旅行に行った。

寝る前の時間とか、空いた時間にぼくに電話をかけてくれたことが本当に嬉しかった。その日行った場所、そこであった出来事を電話越しにも分かるくらい楽しそうに話す君を本当に愛らしく思ったし、ぼくも話を聞いていてすごく楽しかった。

 

 

***

 

 

2019年11月4日。

ぼくと君がお付き合いを始めた日。

その日は朝から晩までディズニーシーで遊んだ。

 

楽しみすぎたから大量のお菓子を持っていってぱんぱんになったぼくのリュックサックを見て君は笑ってたね。待ち時間の手持ち無沙汰が不安だったから、Netflixに落とした君が好きって言ってたアニメをたくさん落として行ったけど、待ってる間も嫌な顔をせずにたくさん話してくれたから嬉しかった。

 

「アニメいらなかったね」って笑う君を見て、ぼくは君のことが大好きになった。

 

その日の夜、ディズニーシーの地球儀のとこで告白しようと思って話しかけるんだけど、顔を見ると君があまりに綺麗だったから何を言えばいいか分かんなくなっちゃって無言になるぼくを君はきょとんと見ていたね。

 

結局、ディズニーシーの外の喫煙所で座りながら話したときも言えなくて、駅のホームまで見送ったときにそこでも言えなくて、帰ってから電話で言ったね。

 

すごく恥ずかしくてどきどきしたのを今でも覚えている。君が「よろしくお願いします」と言ってくれたときは本当に飛び上がりそうなほど嬉しかった。

 

 

***

 

2020年1月。

ぼくが生まれて初めて家族以外の人と正月を過ごしたその日に隣にいたのも君だった。

 

2人で福岡と大阪に行ったね。初めての場所と慣れ親しんだ場所の両方を君と過ごせて嬉しかった。途中でカンピロバクターに罹ってずっとホテルで寝込んでいたぼくを心配してくれて暖かい人だと思った。

 

意味もなく散策したり、旅館の朝食のカレーをたくさん食べたり、本当に楽しかった。

 

 

***

 

 

2020年3月下旬。

お互いに大学生活が終わって、新社会人になる春。

君は20数年間過ごした実家を出て、社宅で一人暮らしをするので、そのお手伝いをしにぼくも一緒に行ったね。そのままちょっと一緒に住んだよね。

 

君は「東京に出られると思ったのに」と初めは不満げだったけど、すぐに適応してちゃんと生活していて逞しい一面もあるんだなと思った。

 

新型コロナウイルスがちょうど猛威を奮っていて、全然お出かけできなかったけど、君とずっと一緒にいたからすごく楽しかった。

 

この頃、君は食べ過ぎて太っちゃったなんて言ってたけど、そんなこと全然気にならなかったしずっとずっとすごく綺麗なままだった。

 

 

***

 

2020年8月1日から今日まで。

君の本配属が決まった矢先、「良かったら一緒に暮らさない?」と僕に言ってくれたね。君とずっと一緒にいれるから本当に嬉しかった。

 

一緒に不動産屋さんを選んで内見をしたり、ニトリやイケアに行って、家具や家電を「あれがいい、これもいい」と話しながら見て回ったり、どれも初めてのことだったけど、すごくわくわくした。

 

家で家具を組み立てたり、ネスプレッソを買ったり、ちょっとずつお互いの私物が増えていったりして、家が快適になっていくのが幸せだった。

 

それからボードゲームを買い揃えたり、ぼくの友達を毎週末家に呼んで遊んだりして、君がぼくの友達の輪の中に自然にいるようになっていったことが本当に嬉しかった。

 

その他にも、セブンイレブンのやっすいプリンを買って帰ると嬉しそうにしてくれる君が本当に愛らしかった。

コーヒーを飲みたいときに少しかしこまってお願いする君がなんだか少しおかしかった。

寝ているときに夢の中で仕事をしているのか分からないけど、丁寧な口調の寝言を言うのが面白かった。

どんなときも毎日笑ってくれて元気をもらっていた。

お出かけする前にいつも「どう?可愛い?」と聞いてくる君は本当に可愛かった。

 

一緒に住んでから毎日君の新しい一面をたくさん発見できて、日々愛おしくて毎日がすごく幸せだった。

 

何もかもが特別だった。

 

 

***

 

長くなってしまったけど、君との思い出を振り返っていてそのどれもがぼくの中でかけがえのないものになっていること。

 

君がくれた幸せをぜんぶ自分の中で当たり前のことにして、好き勝手やっていた自分の軽薄さを改めて思い知らされた。

 

ぼくは全然いいやつじゃないけど、本当はもっと一緒にいて、君がくれたようにぼくも君に幸せを渡せたらと思う。安定した日々とか、そういう今まで大切にできなかったものを大切にしていきたい。

 

今更遅いのは分かっているけど、本当に本当に君と離れたくない、別れたくない。でも、君のことを何も考えずに傷つけまくったぼくだけど、今日君がぼくに示した決意と覚悟を前にそんな我儘を今更言うのはすごく失礼だと思うから、

 

せめて、何日か、はたまた何週間か先の、ぼくたちがこの家を退去するその瞬間までは本当の意味で誠実に君と向き合うし、楽しい日々を過ごせるように努力したいと思う。

 

最後のこの瞬間だけでも君が少しでもぼくと付き合っていて良かったと思えるように一日一日を大切にしようと思う。

 

ひなちゃん、今までごめんね。

そして、こんなぼくを大切にしてくれてありがとう。

2年と17日間、本当に幸せでした。