稚拙

けっこう真面目です

多分この世で不可逆的なものだけが絶対的に正しい。例えばそれは時間。

過去は美しい。

振り返りたくない過去も掘り下げてみると、なんだこんなものかと思える瞬間があります。

例えば、高校一年のときの昼休みに教室でたった一人で弁当を食べた記憶も、大学一年のときの恋人が知り合いと寝た記憶も、ある種トラウマとして刻み込まれていて封印し続けていたような過去も案外なんとも思わなくなっていたりして僕自身としても驚いた経験があります。

それどころか、美しい記憶として残っていることも往々にしてあります。あの頃のこういう孤独が、こういう理解されなかった感情たちが今の自分を作り上げているんだと思うと悪いように思えないとか、抑圧されていたことへの抵抗に対する懐かしみとかそういった感じでしょうか。

ひとつ、僕の話をします。大学一年の頃に僕の知り合いと寝た恋人については別れ方は確かに最悪でした(そしてこれ以上最悪な別れ方はないと思われる、というかそう願いたい)けど、かと言ってその全てが最悪だったかと言われると(僕の中では)そんなことはなくて、デートした記憶とか電話したこととか会えない時間に考えていたこととか、とにかく色々。分かんないですけど思い出の数々を思い返してみると美しい記憶の方が多く蘇ってきたりするんですね。トラウマ級のというか十分トラウマな出来事があってもこうだから本当に不思議です。

まぁ時間が解決したとか、僕が割と忘れっぽいとか個人差のある話かもしれませんけど。

なぜ、過去は美しいんでしょうか。

それは時間が不可逆で絶対的に正しいものだから、ではないでしょうか。

過去は不変です。対照的に現在は不安定だし未来は不確実です。つまり過去だけがいつも正しかったものとして僕のそばに存在し続けます。

「人生は選択の連続だ」と誰かが言っていました、誰かは忘れましたけど。

確かに僕たちは毎日毎時毎分毎秒選択を迫られていますね。「将来なりたいものはなんですか」といったものから「今晩何を食べますか」といったものまで、僕たちの生活は全てが選択によって成り立っています。

とすれば、過去は選択の集合体ということになります。僕たちがその瞬間に最善と思い、取ってきた選択が過去を作っていきます。その選択が本当に最善のものだったか、或いは後悔の元凶となっているものであるか、という類のぼく達が抱く主観に関わらず全ては「確固なもの」として過去になります。

でも対照的に、現在のことや未来のことに想いを馳せるとき、その対象は基本的に全てが不確実で不明瞭です。だから、僕たちはたまらなく不安になります。明日死ぬかもしれない、とか。そんなことはないにしても、就活のときに就職氷河期かもしれない、とか。彼氏がずっと私を好きでいてくれないかもしれないとか。色々ありますよね。

確実に現在は、そして未来は不安なものです。

では、過去はどうでしょう。過去は変わりません、なにがあっても絶対に変わりません。楽しかった日々は思い返しても楽しいままだし、後悔はいつまで経っても取り返しがつかないままです。それは確かに悲しいことかもしれないし、切ないことかもしれない。

僕だってやり直したい過去とか後悔してることとかもちろんあります、そういうことを思い出したとき、戻りたいなぁとかやり直したいなぁとか思ってしまうものです。

でも、その「もしも」とか「あのとき」とかそういうのが実際に戻れちゃって選び直せるとしたらどうでしょう。

そもそも面白くないとかあるかもしれませんけど、僕が純粋に第一に思うことは、不安で仕方なくなるだろうな、ということです。

現在の自分は過去の行動の積み重ねで、過去の行動は「既に起こった」という事実が覆しようのない証拠として担保されています。

だから、僕たちは自分のことを分析するとき、過去の経験とか、そのときの感情とかに立ち返って物事を考えるし、その思考パターンを疑いようのない手法として、自分を見つめ直します。

しかし、仮に時間が可逆的なものであるとしたらどうでしょう?過去が「既に起こったこと」であるという前提がまず崩壊してしまいますね。そしたら僕たちは何を確かものとして、自分を定義したらいいのでしょうか?

「あのとき起きたことで、多分僕はこう感じた。でも、一回改変したかもしれない。改変した良くなった、或いは悪くなった結果と、僕が1回目に感じたであろう感情との断絶を埋められそうにない」みたいな事態が起こるかもしれません。僕は過去に戻ったことがないので分からないですけど、想像しただけで不安になってきます。

行動と、行動に付随した経験、経験を踏まえて体得した感情、感情によって形成された価値観。その全ては時間の不可逆性のおかげで成り立っていると思っています。どんな過去もそれは正しいのです(善悪的な意味ではなく)。

確かに、すごく後悔していることとかやり直したいことは数え切れないくらいありますし、過去に戻りたいとかタイムリープしたいとかすごく頻繁に思いますけど、確実にその類の感情が自分の視野とか価値観とかを形成してるし、糧になっているはずなので、やっぱり戻れないなぁと思ってしまいます。

なんか自分でも落としどころがよく分からなくなってきたので、この辺で終わりにしたいと思います。最後に僕からひとつだけ。他にも色々不可逆的なものって何かなとか考えたのですが、僕は「時間」以外思い浮かばなかったので、他にもこういうのあるよ!みたいなのを教えていただけたら幸いです。では。