稚拙

けっこう真面目です

不倫相手やめるよ

 と、女友達から電話がきた。

そうなんだ。と淡々と話を聞く。別に僕には関係ないし。電話口の向こう側の声が妙にカラッとしたものだったから、空元気なのかもしれないとは思ったけど、それでも誰かが何かをやめると他人に言うときは意志の強いもので、言われた方は「そっか」くらいで肩をたたくくらいでいい気がする。

ただ、正直拍子抜けではあった。

だって別に不倫相手と仲が悪くなったわけでも、何かこじれたわけでもなくって、彼女の中で「不倫」に対して葛藤が生まれたわけでもなさそうだったから。戸惑った、というか今更どうしてということがあった。

僕が不倫をできないのは、寂しがりだから(多分きっとそう)だけど、不倫をしている人の実態を聞くのは別に嫌いじゃない。

彼女からもやっぱりずっと不倫ってどういう感じなのか聞いていて(その上でしたいとはこれっぽっちも思わないけど)

メッセージを特別な名前にしたりして、パッと見で周りから誰か分からないようにしたり、電話しても着信を消したりする。

なんだか自分との関係が積もっていかない感じがするね、とほんの少しの哀しみを込めて言ってみたけど、いや、別に。と返ってくる。

さっぱりとした性格。だからこそ不倫みたいな止むまでの一瞬の雨宿り、曲がるはずのなかった曲がり角をちょっと曲がってみるみたいな関係が性に合ってるのかなとか思った。

そういえば、「去る者追わず」は主義として持ってるとかなんとか言ってたし。

彼女は大学生で、相手はパーティーで知り合った会社勤めの妻帯者で、別に彼女から連絡することはほとんどなく、彼から会いたいと2、3日前くらいに連絡が来る。

料理は嫌いじゃないし得意なほうだけど、泊まるとき以外は別に作ったりとかしない。だって彼が家に帰るとご飯が作られているから。

なんとなく彼が家に来て、なんとなくテレビのスイッチを入れて、なんとなく仕事や学校のことなんかを喋って、なんとなくセックスしてちょっと横になっておもむろに起きて、彼は家に帰る。

匂いがうつるといけないから、芳香剤や香水の類は一切家に置かないし、別れ際にタバコを一本吸って匂いを誤魔化して家に帰る。

彼が帰ってからはまたテレビをつけて、スマホを開いてLINEとかTwitterとかして、お腹が空いたら料理をして寝る。

だから、彼が来たからといってなにも特別なことはないし、生活リズムだって崩れないんだと。

僕には耐えられないなぁと言うと、君みたいな寂しがりには無理だよって笑われた。

不倫相手の人の話を聞くと、「プロ意識」みたいな言葉が思い浮かんでくる。人を受け入れるために何か特別な訓練をしたんじゃないかという人が多い。

それでもきっとどこかで寂しがったりするのかなとは思うけど。でも、それももしかしたら話を聞くこっちが勝手に寂しがっていてほしいと思っていたいだけで、本当に寂しくないのかもしれない。僕には分からない。

けれど、そんな彼女が不倫相手をやめると言った。だから余計に僕はうろたえた。

なんで、と聞くと「一言で表すと安定感」とかなんとも彼女らしい淡々とした返事が返ってくる。

不倫をしてるときはさ、自分も一人暮らしで誰かが自分のところにやってきてそしてどっかに出かけてとかそういうのが大して苦じゃなかった。私だってどこかに行くし。別にお互いひとつに収まらなくたっていいじゃない。けど、実家に帰ってみてね、ふと安定感っていいなーって思ったの。

なるほど。おおよそ理解はできないけど、確かにどこへでも行ける気楽さは悪くないのかもしれない。想像はついた。

 

その上で僕にはやっぱり無理だなぁと思いました。